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名古屋地方裁判所 昭和43年(ワ)2744号 判決

原告 牧野勝次

被告 不動信用組合

右代表者・代表理事 松村陶弘

右訴訟代理人・弁護士 安藤久夫

主文

被告は原告に対し金六七〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四三年九月一七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二〇分しその一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告は、「被告は原告に対し金六九二、〇五七円及びこれに対する本訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、原告は被告との間に次のとおり定期預金及び定期積金契約を結び、預金若くは掛金をした。

(一)  定期預金(証書番号第A四〇八号)

預金額 金八万円

預入日 昭和四三年三月二六日

期間 三ヶ月間

利率 年四分一厘

(二)  自動継続定期預金(同第〇一七七号)

a預金額 金二万円

預入日 昭和四〇年八月三一日

期間 一ヶ年間

利率 年五分六厘

b右預金は各期日に自動的に継続し、最終の満期日は昭和四三年八月三一日に到来した

c右期日までの利息合計は金二、〇五七円である

(三)  自動継続定期預金(同第三七五号)

a預金額 金一〇万円

預入日 昭和四二年一二月一四日

期間 六ヶ月間

利率 年五分一厘

b前記(二)同様期日に自動的に継続し、最終の満期日は昭和四三年六月一四日である

(四)  定期積金(同第一一四号)

a給付契約額 金二五万円

掛込方法 昭和四二年二月二八日を第一回とし、以後毎月末日迄に金一万円宛を二年二四回に亘り掛込むこと

満期 昭和四四年二月

b現在までの掛込金は金一五万円である

(五)  定期積金(同第一六六号)

a給付契約額 金一〇万円

掛込方法 昭和四二年七月三一日を第一回とし、以後毎月末日迄に金四、〇〇〇円宛を二年二四回に亘り掛込むこと

満期 昭和四四年七月

b現在までの掛込金は金四万円である

(六)  定期積金(同第一六五号)

a給付契約額 金五〇万円

掛込方法 昭和四二年七月三一日を第一回とし、以後毎月末日迄に金二万円宛を二年二四回に亘り掛込むこと

満期 昭和四四年七月

b現在までの掛込金は金二〇万円である

(七)  定期積金(同第二三〇号)

a給付契約額 金五〇万円

掛込方法 昭和四二年一二月一四日を

第一回とし、以後毎月末日迄に金二万円宛を二年二四回に亘り掛込むこと

満期 昭和四四年一二月

b現在までの掛込金は金一〇万円である

二、ところが、被告は昭和四三年五月二七日その監督官庁たる愛知県知事により預金の受入及びその払戻(利息を含む)等に関する一切の業務を停止する旨の命令を受け現在右の業務を停止中である。元来定期預金、定期積金は満期にその支払を受くべきものであるが被告との契約により、やむを得ない事情があるときは解約できることになっているので、原告は本訴状送達を以て前記の各契約の解約告知をした。

三、よって原告は被告に対し第一項(一)ないし(七)の各預金及び現在までの掛込金と同項(二)bの利息金合計金六九万二、〇五七円の返還とこれに対する本訴状送達の翌日から完済に至る迄民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、被告の各抗弁事実を否認した。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁並びに抗弁として、

「一、原告主張の請求原因事実中第一項は認める。

二、同第二項中、原告主張の日、その主張の如き愛知県知事より業務停止命令を受け、現在預金(その利子を含む)等の払戻業務を停止している事実は認めるが、原告その余の主張事実は否認する。

三、原告主張の定期預金(二)(三)は自動継続定期預金であるから、右預金はそれぞれその満期に継続し現在満期は未到来であるところ、定期預金は性質上満期前には払戻の請求ができないものであるから原告の請求は失当である。

四、定期積金については、特約により被告がやむを得ない事情があると認めたときは解約に応ずることがあるが、被告がやむを得ないと認める事情は存しないから原告の解約は無効である。

五、前記業務停止命令は被告のみならず原告にもその効力を及ぼすから原告は被告に対しその預金及び積金の返還とこれに対する履行遅滞による損害金の支払を請求することはできない。」と述べ(た。)

証拠≪省略≫

理由

原告主張の請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。そして≪証拠省略≫によると、愛知県知事は昭和四三年五月二七日被告に対し協同組合による金融事業に関する法律第六条において準用する銀行法第二二条の規定に基づき同日午前一〇時より組合の業務停止を命じたこと、及び右の業務停止とは被告による新規預金の受入、預金の払戻(利子の支払を含む。)の停止等に及ぶものであることが認められる。

(定期積金について)

≪証拠省略≫によると、本件定期積金契約中には、「被告がやむを得ない事情があると認めたときは解約に応ずる。」旨の約款が存在することが認められる。右約款は主として預金者が積金の掛込を中止したり、その履行を遅滞した場合等、預金者側の経済事情の変更とそれによる債務不履行のあることを予想して金融機関に解約告知権を留保したものと考えられるが、他方、定期積金契約にあっては、預金者の掛金払込の義務と金融機関による満期における給付契約金の支払義務とが対価的に牽連する双務契約である(貯蓄銀行法第一条第一項第四号参照)ことに鑑みて、被告側に右給付契約金の支払義務の不履行が確実視される等の事情が存在する場合には原告もまた右約款に基づいて定期積金契約を告知し得るものと解釈するのが相当である。右と異なる被告の見解は採用することができない。こうして見てくると、前記の被告の業務停止の事態の如きは正しく「やむを得ない事情」に該ると解されるので、原告が右約款に準拠して本訴状の送達を以ってなした定期積金契約の解約告知は有効といわねばならない。

(自動継続定期預金について)

しかしながら、定期預金はその性質上満期前にその払戻しを受け得ない預金であり、金融機関にその満期前払戻に応ずる義務はない。預金者は満期まで払戻を請求できないという拘束を受ける代わりに利息の面で有利な取扱を受けている訳である。原告は定期預金に関しても定期積金契約と同旨の途中解約に関する約款が存在すると主張するが、もとよりこれを認めるに足る証拠は全くない。ところで本件自動継続定期預金(二)について昭和四三年八月三一日に満期が到来したことは当事者間に争いがない。そして右満期日までに原告がその払戻の請求をしたことについて特段の主張・立証のない右の件にあっては、右期日に更に預金は旧預金の元利金の合計額を元本として、旧預金の預入期間と更に同一期間継続したものと解する外はない。従って右預金に関しては満期は未だ到来しておらず原告はその返還を請求することはできない。従ってこの点に関する原告の請求は失当である。

ちなみに預金の自動継続と前記業務停止命令の効力の問題につき考えてみるに自動継続定期預金は旧預金と新預金とがその同一性を保って継続されるという性質を有するので業務停止命令にいう新規預金の受入に該当せず定期預金の自動継続に関しては、その停止の効力が及ぶものとは解せられない。

次に原告の自動継続定期預金(三)について、昭和四三年一二月一四日に満期が到来したこと、及び原告が本訴状送達(同年九月一六日)を以て右預金の払戻を請求していることは明らかである。従って右定期預金契約は右告知により前記一二月一四日の期日を以て終了したものということができる。

(業務停止命令の効力について)

被告は右命令の効力は原告に対しても及ぶから原告は預金の返還及び債務不履行による遅延損害金の支払を求め得ないと抗弁するが、右命令は被告組合の業務の停止を命じたのに止まり、原告の私法上の請求権の行使を何等拘束するものでないことは明白である。被告の右見解は採用の限りでない。

(結論)

してみれば、原告の本訴請求中、前記自動継続定期預金(二)の元利金を除きその余の預金と掛込金合計金六七〇、〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四三年九月一七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 牧田静二)

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